二人の『彼』
しかしお詫びと言っても、具体的に何をすればいいのか全くわからない。
先輩がいつものように手料理を振る舞えばいいのではと思ったが、それはお詫びにはならないらしい。
やっぱり何も思いつかないので、とりあえず市中に足を運んでみた。
もう住み慣れてしまって、新たな発見もなければ驚きもない。
非日常も、続けばいつかは日常と化す。
日常から脱却するには、非日常を求め続けるしかないのだ。
知らないものに興味を抱き、知識を得ることに悦びを感じる。
それがきっと、大久保さんの読書に対する意欲の根元意識なのだろう。
勉強を厭わない天才タイプ。
歩く辞書たる所以である。
けど、そうなるとますます何をお詫びにするかわからなくなってくる。
元の時代のものでも渡せば興味を持ちそうだけれど、来た時はほぼ手ぶらだったため、渡せるものなんてない。
この時代に必要不可欠なもの──例えば刀とか──という案も浮かんだが、そもそもこの時代の知識を、俺は持ち得ていない。
1周回って、やっぱり最終的に考えたのは本だった。
どの本が未読なのかは知らないから、迂闊に買うことは出来ないけれど、新刊を買えばまあ間違いはないだろう。
というわけで、俺も情報収集のために何度か訪れたことのある馴染みの本屋へと足を踏み入れる。
──と。
そこには、丁度考えていた人の姿があった。