二人の『彼』


「……あ」



吸い込まれそうな程に羅列した本の数々を、食い入るようにして見つめる大久保さん。



いや、吸い込まれているのか、あれは。



「……あの」



控え目に声をかけるが、吸い込まれた大久保さんには届かない。



軽く肩を叩くことで、やっと気づいてもらえた。



「何?」



相変わらず愛想のない瞳である。



本の世界から救出(?)したはいいが、何を話そう……。



そもそも何で本屋に来たんだっけ。



「あ……その本、買うんですか?」



そうそう、弁償するための本を買いに。



「別に」



「……」



何でそんなそっけないんだろう……。



俺嫌われるようなことしたかな。



「弁償とかいらないって言った」



「……」



しかもバレてる。



「俺は」



やがて大久保さんは、愛想笑いではない、自然な微笑みを浮かべて言った。



「いつもので、十分だから」



この人は、何をどこまで知っているのだろう。



この時代って、心理学があったりするのかな。
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