二人の『彼』
沖田とお弁当
「はあ……お弁当、ですか?」
「はい」
新撰組の屯所。
学習しているのだかそうでないんだか、先輩はまたここへ訪れていた。
沖田さんは頭上にクエスチョンマークを浮かべてこそいるけれども、拒否はしないようだった。
「ちゃんと3食食べないと、体に悪いです」
先輩は窘(たし)なめるように言う。
「そうですか」
しかしどこか他人事のように返事をした沖田さんに、反省の色は見られない。
なぜこうも食べることに執着しないでいられるのだろう──食欲とは人間の生理的な欲求であるはずなのだが。
どころか、危険を省みず戦場に舞う姿を見ていると、生きていることにさえ執着していないのではないかと思う。
自分のことに無頓着なのだろう。
ありえないほどに。
この人が一日の暮れ頃に「そういえば昨日から何も食べていないや」と呟くのを、何度聞いたことかわからない。
体が動かなくなってから初めて気がつくらしい。
本当、生きているのが不思議なくらいだ。
「とにかく、ちゃんと食べてくださいね」
先輩が念押しするように言うと、沖田さんはわかりました、と返した。
本当に分かっているのだろうか。
ともかく、分かっていようといまいと。
先輩がお弁当を持ってくる、沖田さんのお弁当生活がこうしてスタートしたのだった。