二人の『彼』
沖田さんたちと別れてから、しばらくして辿り着いたのは、先輩がよく来ると言う大きな桜の木のある、小高い丘だった。
真っピンクだったであろう桜の木は、所々に緑色の葉がのぞいている。
ざぁ……っと。
風が吹くたびに、大量の花びらが舞う。
にもかかわらず、木の幹は微動だにせず、しっかりと立っている。
何が、と明確には言えないが、不思議な木だ。
「不思議な木だよね」
まるで心を読んだかのように、先輩は口を開いた。
「私が初めてここに来たとき、『彼』に名前を呼ばれた気がしたの」
「…………」
『彼』──か。
「先輩」
それは思わず、口をついて出てしまった言葉だった。
「今……好きな人、いる?」
「え……」
何の根拠もない、男の勘──女の勘より当てにはならないだろうが、それは長年見てきた先輩に対する直感だった。
言葉をつまらせる先輩を見て、慌てて取り繕うように笑って見せる。
笑えていたか、笑ったように見えたか、分からないけれど。
「ごめん、なんでもない」
肯定も否定も、聞きたくなかった。
自分で訊いたくせに。
ここに来た当初は、俺が一番に先輩のことを知っていたのに──俺しか、先輩のことを知らなかったはずなのに。
何で、こんなにも、遠いんだろう。