二人の『彼』
山崎さんが探していたのは、現在行方不明の隊士──藤堂からもらったという石だった。
どうやら山崎さんは石集めが趣味なようで、石については喜々として語ってくれた。
でも俺に、石の価値はよく分からない。
どれだけ語ってもらったところで、道端の石は道端の石。
無価値なものにしか思えないのだった。
山崎さんは星を見るのも好きなようだ──なかなかロマンチストである。
そんなロマンチスト山崎さんに、藤堂がどれだけの価値を持った石を渡したのか知らないけれど、山崎さんは律儀にもその石を持ち続けていたというわけだ。
山崎さんは、行方不明になったのは自分のせいだというくらい、藤堂とは仲が良かったらしい。
石というもの以前に、藤堂からもらった、ということに既に価値を見出だしていたのかもしれない。
昨日の行動ルートを、山崎さんと辿る。
山崎さんの部屋に始まり──成程石のコレクションがたくさんあった──、市中や店の中、川辺など。
とはいえさすが監察、俺のような凡人では気づかない裏道ばかりだった。
なかなか好奇心をくすぐる冒険の旅だったが、しかし目的の石は見つからない。
まあ、どの石も同じに見える、そのうえ抽象的にしか石の特徴を聞いていない俺は、山崎さんについていっているだけに等しいわけだが。
「……ここも行くんすか?」
石を探して随分経った──最後に山崎さんが来たのは、森だった。
森といっても、道の舗装されている、わずかに木が繁っている場所、という感じだが。
でも、こんなところで1つの石を見つけるのは至難の技だ──砂漠の中で探し物をするようなものだ。
「ああ。昨日来たから」
何の躊躇いもなく、山崎さんは森へ踏み込んでいく。
そしてその背中を、俺も追っていく。
道が舗装されているとはいえ、厳しいのに変わりはない。
これは自然と足腰が鍛えられそうだ。
山崎さんは細身だけれど、その実これほどの行動を起こせるのは、こうやって自然と鍛えているからなのかもしれない。
「……あ」
しかしそこは俺も男だ、軽々とは言わずとも息が切れるほどではない。
足場の悪い道を踏み分けながら進んでいく。
足元に集中していたから、俺は気づくのが遅れた──その存在に。
山崎さんが、突然足を止めた、その先にいたのは。
「……くま崎」
「熊?!」
子熊が、山崎さんにすり寄ってきていた。
「え、えっと…」
突っ込み所満載なんだけれど。
「……飼ってるんですか?」
「……いや」
じゃあ何でくま崎なんだ。
「沖田が勝手に名前つけたから」
「……」
一瞬で納得できた。
「あ、山崎さん、それ」
「?」
くま崎が口に何かをくわえていた──それは。
「……あ」
きらきらと光る、綺麗な石だった。
「よくやった、くま崎」
山崎さんは、穏やかに微笑む。
こうして、俺のささやかな冒険は幕を閉じたのだった。