二人の『彼』
後日。
「篠宮くん!」
先輩の元気な声に、俺は安堵する。
相変わらず厳戒体制のままだが、先輩も相変わらず忙しなく働き回っていた。
「手紙、預かってるよ」
「俺に?」
「うん」
誰だろう、何だろう……と訝しみながら先輩からそれを受け取る。
差出人は桂さんだった。
「…………」
手紙は、俺の体調を心配する文から始まる、なんとも桂さんらしいそれだった。
そして主な内容は、先日の対談の礼と、しばらく身を隠すことになったという状況連絡だった。
──しばらく、お嬢さんのこと頼むな
そんな一文が目にとまる。
「しばらく、ね……」
俺は手紙を畳みながら、桂さんの言葉を思い出す。
この時代に来て、もうだいぶ経つ。
元の時代に帰る手がかりは見つからないのに、元の時代に帰る足枷は増えてきてしまった。
向き合わなければならないのだろう。
俺は、この時代に。
この立場に。
この───気持ちに。