二人の『彼』
龍馬と卵焼き
新撰組にお世話になってどれくらい経っただろう。
今日は、非番の日。
だけど特にすることはないので、四季にやってきているわけだ。
順調に先輩の手伝いをしていたのだけれど……。
「篠宮くん、ちょっと台所お願いしてもいいかな」
「え?」
慌てた様子の先輩は、俺に声をかけてきた。
「材料が切れちゃったの。すぐ戻るから」
そう言うと先輩は、ぱたぱたと出掛けていった。
ふうっと溜め息を吐きながら、客が帰ったあとのテーブルを片付ける。
いや、テーブルとは言わないのか……机?卓?
日本にいるのに言葉が通じないのは随分と不便だ。
ジェネレーションギャップも度が過ぎる。
片仮名言葉は大抵使えない。
ここへ来てからというもの、元の時代はわりと外来語が溢れていることをひしひしと感じる。
まあ、開国したらこの時代にも、たくさんの新しいものがやってくるんだろう。
丁度分岐点の時代にいるわけだ。
そう、確か明治維新によって、それまでの文化が覆ることになるのだ。
こんな小さな島国になんの魅力があるのか知らないが、外国は開国を要求し、この国はそれに応えることになる。
外国との間にようやく橋が架かる。
俺はもしかしたら、その世紀の瞬間に立ち合えるのかもしれない、と。
想いを馳せていた俺の目に映ったのは、まさにその橋を架ける人。
「腹減った」
暖簾を潜ってきたのは、坂本龍馬だった。