二人の『彼』
坂本龍馬。
ここ、四季の常連客の一人である。
元の時代では、よくアニメやドラマなんかで取り上げられる英雄と言っても過言ではない活躍をした人。
どの作品でも奔放な振る舞いをしているようなイメージがあったけれど、別にそういうわけではないらしい。
むしろぼーっとしているところがある。
でも、時々覗く好奇心に満ちた目は、坂本龍馬の人物像そのものだと言っていい。
龍馬さんの原動力は、きっとそこにあるのだろう。
そんな一人の好奇心が、のちに国一つを動かすことになろうだなんて、今こうやって対峙している段階では思えない。
「腹減ったんだけど。……あいつは?」
「先輩なら、丁度今出ていきましたよ」
座った席の前の机に頬づえをつきながら、む、と顔をしかめる。
「卵焼き」
「え……ああ、はい。
注文するのはいいすけど、時間かかりますよ」
というか、この時間に卵焼きって。
このガランとした店内からも察せられる通り、昼の客が落ち着いた午後の時間帯である。
3時のおやつなのか。
「今すぐ」
「だから今先輩いないって」
「じゃあ」
龍馬さんは頬づえをやめ、俺を見上げると意地悪そうに笑った。
「お前が作ればいいだろ」