二人の『彼』
「お待たせしました」
龍馬さんの着いた席の机の上に、不恰好な卵焼きを置く。
ちょっと乱暴に置いたから、皿の上の卵焼きが跳ねたけれど、知ったことじゃない。
龍馬さんは俺作の卵焼きをまじまじと見つめると、へぇ、と面白そうに呟いた。
……そんなに面白いものでもないと思うんだが。
俺だって卵焼きくらい作れる。
そりゃ先輩ほどのクオリティはないけれど。
それに、形状はともかくとして味は先輩のそれとそんなに変わらないと思う。
使っているものは一緒だし、何よりここで先輩が作ることを見ていたから。
見よう見まねではあるけれど、我ながら悪くない出来だと思った。
それでも、龍馬さんがそれを口に運ぶのを、どきどきしながら見守る。
「……ん」
1つ目の卵焼きが完全に口の中から消えてから、龍馬さんは言った。
「いつものがうまいちや」
「……」
意地悪な笑顔で言われた。
しかも土佐弁で。
割と端整な顔立ちだから、なんだか余計に
傷つく。
「もう作ってあげないすよ」
「拗ねんなよ」
箸で2つ目をつつきながら、龍馬さんは俺を見上げてくる。
「まあ、でも、悪くねえよ」
ぱくり、と龍馬さんは卵焼きを頬張る。
全く。
なんという飴と鞭の使い方だ。
「……どーぞごゆっくり」
全力で棒読みする。
照れ隠しではない、決して。
背を向けた俺に、後ろでふっと笑う声が聞こえた気がした。