二人の『彼』
斎藤と刀
「……ここには慣れたか?」
「……まあ、それなりには」
ある、晴れた日の昼下がり。
俺は齊藤さんと二人、街に出ていた。
齊藤さんとは見回りで一緒になることが多いのだが、今回は行き先も目的も、まだ教えてくれていない。
齊藤さんは、隊長職でありながら、新撰組一と謳われる沖田さんに匹敵するくらいの剣の腕を持ち、且つ、新撰組の頭脳とも言える土方さんに勝るとも劣らないほど頭がキレると噂されている。
あくまで噂だが。
俺は実際にこの人が戦っているところを見たわけでも、局長や副長などの幹部格相手に意見している姿を見たわけでもない──幹部格どころかあまり人と話す姿を見かけない──から、真偽のほどは確かではない。
しかし、こうして二人だけになってみると、嫌でもわかる。
天才のオーラとでも言うのだろうか。
いや無論、先述した幹部格の人たちにも、そういうカリスマ的オーラはあったのだけれど、この人のそれはまた別のものだった。
なんていうか、絶対的なのだ。
物事を全て見透かしているような、世界の真実を写し出すような、そんな綺麗な片方の瞳を見て思う。
どうして包帯で片目を隠しているのかは知らないけれど、もし怪我などでなく、その包帯の下が健在であるのなら、俺はその両目を直視できないかもしれない。
真っ直ぐすぎて。
きっとどんな些細な嘘も、その瞳の前ではつくことができないだろう。
冗談でさえ言えないかもしれない。
だから二人きりの見回りとはいえ、包帯の件について訊くのは憚れた。
タブー感が否めない。
冷静沈着な齊藤さんが激昂するとは思わないが。
ともかく。
"別の時代からとんできました"なんていうとんでもない事実を持っていると、隠しているわけではないにせよ、罪悪感を拭いきれない。
まさか冒頭の台詞の"ここ"が"この京の街"ではなく"この時代"を意味して言ったのではあるまい。
打ち明けたところで信じてもらえないだろうし。
というか、俺も信じたくない。
それに、無闇に言いふらして歴史を崩してもいけないだろうから。
まあ、後者に関しては、俺たちがタイムスリップをしている時点で、現在進行形で少しずつ変貌しつつはあるのだろうが。
過去を改変すれば未来も変革する。
変えたい過去は山のようにあるけれど、歴史は変えてはならない。
そんな気がする。