二人の『彼』
「本当にいいの?篠宮くん」
「ここまで来て引き返さないよ」
俺と先輩は、新撰組の屯所の前に来ていた。
先輩が、土方さんって人──記憶が正しければ、新撰組の副長──に配達を頼まれたらしい。
別に俺が着いてくる必要はなかったのだ──先輩にも当初は断られた──が、俺は頑としてついていくと言い張った。
だってここは、元の時代とは違うのだから。
帯刀した侍たちが闊歩する危険なご時世である。
しかも先輩は知ってか知らずか、そんな物騒な時代を創り出した元とも言えるような、政府の直轄機関に単身で乗り込もうというのだ。
いや別に敵対している訳ではないけれど、『刀』そして『男』という現代を生きる女性である先輩にとって危険分子極まりない二大要素が揃った場所に行かせるわけがなかった。
このイメージは完全に俺の偏見だが。
でもまんざらでもないだろう。
まあ、用心に越したことはない。
石橋は叩いて渡れ、だ。
石橋どころか、舗装されてないように見えるこの土の路でさえ、叩いて渡りたいくらいだ。
先輩は以前にも1度、新撰組には一人で配達に来ているらしいが。
その時は、隊士に絡まれそうになったところを、齋藤さんと山崎さんという人に助けてもらったそうだ。
そういう経験があるからこそ、俺がついていかなければと思うのに……。
先輩はまた助けてもらえるとでも思っているのだろうか。
もしそう思っているのなら、早急にその考えは捨ててもらわねば。
今回は、俺が必ず助ける。
何があっても、だ。
……そこまで大仰に構える必要はたぶん、ないだろうけど。