二人の『彼』
しかしやはり、油断は禁物だった。
近藤さんの部屋、と案内され、俺が先輩より先に襖の中へ入ったその瞬間。
「え」
後ろで襖が閉まる音がした。
「先輩?!」
襖の外側にいると思われる先輩に向かって声をかけながら、慌てて振り向く。
襖を開けようとしたが、それは誰かの手に自分の手首を捕まれたおかげで、阻まれてしまった。
「あなたはこっちです」
先輩の返答は聞こえない。
どこかに連れていかれてしまったのだろうか……。
「先輩……っ!」
「落ち着いてください、悪いようにはしませんから」
俺の手を掴んでいた男が言う。
細身のくせに、力は強い。
「まあまあ……少し、君と話がしたかっただけだ。乱暴な作戦で悪かったが」
部屋の中から、俺の手を掴む男とは別の声がした。
低いけど、よく通る声だった。
俺は先輩を追うのを諦めて、改めて部屋に向き直る。
大きな畳の部屋に、腕を組んで座る、大柄な男が一人、こちらを見ていた。