二人の『彼』
男は近藤と名乗ると、すぐにこう繰り出した。
「新撰組に、入らないか?」
「はあ?!」
待て待て待て。
事態が飛躍しすぎてないか?
状況を整理しろ、俺。
ええと。
まず、ここは幕末の新撰組。
目の前の人は、近藤さん──て、確か局長だったか?!
でもって、俺は新撰組に誘われている──って。
整理したところで不明点が多すぎた。
「な、なんで……」
ようやく絞り出したのはこんな言葉だけで。
「なんでってなあ……」
局長は答えあぐねているようだった。
まさか理由すらないのか。
「ぶっちゃけ人員不足なんですよ」
「ぶっちゃけすぎだ総司」
沖田さんが微笑と共にそう言うと、近藤さんは顔をしかめた。
人員不足……。
それにしては何故俺が呼ばれたのか、見当もつかないのだけれど。
別にどこかで刀を振るったわけじゃ──あ。
「もしかして──見てたんすか」
そういえば、1度だけ。
この時代に飛ばされてまもなく、俺のことを物珍しそうに見ていたガラの悪い連中に襲われたことがあった。
何が目当てだったのかは知らないが、俺に刀を向けてきたのだ。
その時は流石に焦ったけれど、なんとか刀を奪い取り、殺しはしないまでも軽い傷を負わせ、退散させることに成功した。
峰打ちとか、うまく回避できるような技術は、残念ながら持ち合わせていない。
相手に傷を負わせたとはいえ、たいしたトラブルにならなかったのが幸い、と忘れかけていたのだが──ここで功を奏してしまうとは。
「何も見てませんよ」
見てはないと言いつつも、見透かしたように言う沖田さん。
「人に聞いただけです」
なんだろう、その意味深な微笑みは。
「でも……」
「お前の実力は買ってる」
なおも渋る俺に、近藤さんは断らせまいと言葉を挟んでくる。
「それに理由はそれだけじゃない」
「え……?」
なんにせよ俺に利益はないと思うのだが。
「最近、隊士の中で行方不明になった奴がいてな」
思わせ振りに間を置くと、俺をまっすぐ見据えて、
「お前によく似た隊士だ」
と、近藤さんは言う。
「ちょ、俺は知らないっすよ!?」
俺は間違いなく現代から来た──はずだ。
現実的に考えれば、新撰組だった記憶を失って、長い未来の夢を見ていた、なんて可能性の方が高いような気もしなくはないのだけれど……。
そんな可能性の話をしているわけではない。
ただあるのは──事実のみだ。
こっちに飛んできた時に、現代の服を着ていたから、興味を持った呉服屋の人に助けてもらえたわけだし。
携帯とか──機能しないけれど──この時代には絶対に存在しないものを持っていることが、何よりの証拠だ。
証拠となるものが、こんなに信頼できるものだとは思いもしなかった。
「お前がそいつだとは言っていないし、お前が知っているだろうとも思っていない」
どうやら早とちりだったらしい。
もう少し話の構成を考えてほしい……。
この時代にまだ慣れたわけではないし、
受け入れたわけでもないのに、焦らされては困る。
「タイミングを見計らったように現れたお前を、こいつらが見かけたらしくてな」
近藤さんは沖田さんに目を向ける。
当の沖田さんは話に飽きたのか、真顔で虚空を見つめている。
おいおい。
「妙だと思わないか?」
「……思わないですよ」
思わないわけではない。
タイムスリップというあり得ない体験をした以上、理由を探すのは当然だ。
だけど、ここで否定しておかないと、流されそうで恐い。
「つまりそいつの埋め合わせで、よく似た俺を引き入れたいってことだろ」
やっぱり、俺に利益はないじゃないか。
「俺に代わりが勤まるとも思えないし、お断りします」
だってどう考えても無理だろ。
だいたい、現代に帰る手がかりを見つけなければならないのに──ん?
いや待て、もしかしたら、新撰組にいる方が──動きやすいのではないか?
なんて。
一瞬動きの止まった俺を、会話に飽きたらしい沖田さんが見て。
「ああ、そうだ」
清々しい笑顔で、さらりと言った。
「あの女の人、どうしましょうか」
「なっ……!!」
絶句する。
悪いようにしないと言ったのは、この人自身じゃなかったか?
「……脅迫じゃないか」
そういう近藤さんも、沖田さんを諫めようとはしないのだった。
政府の組織なのに、犯罪じみた真似をするのか、この人たちは。
詐欺グループの方がよっぽどお似合いだ、と、どうにもできない俺はため息をつく他なかった。
「新撰組に、入らないか?」
「はあ?!」
待て待て待て。
事態が飛躍しすぎてないか?
状況を整理しろ、俺。
ええと。
まず、ここは幕末の新撰組。
目の前の人は、近藤さん──て、確か局長だったか?!
でもって、俺は新撰組に誘われている──って。
整理したところで不明点が多すぎた。
「な、なんで……」
ようやく絞り出したのはこんな言葉だけで。
「なんでってなあ……」
局長は答えあぐねているようだった。
まさか理由すらないのか。
「ぶっちゃけ人員不足なんですよ」
「ぶっちゃけすぎだ総司」
沖田さんが微笑と共にそう言うと、近藤さんは顔をしかめた。
人員不足……。
それにしては何故俺が呼ばれたのか、見当もつかないのだけれど。
別にどこかで刀を振るったわけじゃ──あ。
「もしかして──見てたんすか」
そういえば、1度だけ。
この時代に飛ばされてまもなく、俺のことを物珍しそうに見ていたガラの悪い連中に襲われたことがあった。
何が目当てだったのかは知らないが、俺に刀を向けてきたのだ。
その時は流石に焦ったけれど、なんとか刀を奪い取り、殺しはしないまでも軽い傷を負わせ、退散させることに成功した。
峰打ちとか、うまく回避できるような技術は、残念ながら持ち合わせていない。
相手に傷を負わせたとはいえ、たいしたトラブルにならなかったのが幸い、と忘れかけていたのだが──ここで功を奏してしまうとは。
「何も見てませんよ」
見てはないと言いつつも、見透かしたように言う沖田さん。
「人に聞いただけです」
なんだろう、その意味深な微笑みは。
「でも……」
「お前の実力は買ってる」
なおも渋る俺に、近藤さんは断らせまいと言葉を挟んでくる。
「それに理由はそれだけじゃない」
「え……?」
なんにせよ俺に利益はないと思うのだが。
「最近、隊士の中で行方不明になった奴がいてな」
思わせ振りに間を置くと、俺をまっすぐ見据えて、
「お前によく似た隊士だ」
と、近藤さんは言う。
「ちょ、俺は知らないっすよ!?」
俺は間違いなく現代から来た──はずだ。
現実的に考えれば、新撰組だった記憶を失って、長い未来の夢を見ていた、なんて可能性の方が高いような気もしなくはないのだけれど……。
そんな可能性の話をしているわけではない。
ただあるのは──事実のみだ。
こっちに飛んできた時に、現代の服を着ていたから、興味を持った呉服屋の人に助けてもらえたわけだし。
携帯とか──機能しないけれど──この時代には絶対に存在しないものを持っていることが、何よりの証拠だ。
証拠となるものが、こんなに信頼できるものだとは思いもしなかった。
「お前がそいつだとは言っていないし、お前が知っているだろうとも思っていない」
どうやら早とちりだったらしい。
もう少し話の構成を考えてほしい……。
この時代にまだ慣れたわけではないし、
受け入れたわけでもないのに、焦らされては困る。
「タイミングを見計らったように現れたお前を、こいつらが見かけたらしくてな」
近藤さんは沖田さんに目を向ける。
当の沖田さんは話に飽きたのか、真顔で虚空を見つめている。
おいおい。
「妙だと思わないか?」
「……思わないですよ」
思わないわけではない。
タイムスリップというあり得ない体験をした以上、理由を探すのは当然だ。
だけど、ここで否定しておかないと、流されそうで恐い。
「つまりそいつの埋め合わせで、よく似た俺を引き入れたいってことだろ」
やっぱり、俺に利益はないじゃないか。
「俺に代わりが勤まるとも思えないし、お断りします」
だってどう考えても無理だろ。
だいたい、現代に帰る手がかりを見つけなければならないのに──ん?
いや待て、もしかしたら、新撰組にいる方が──動きやすいのではないか?
なんて。
一瞬動きの止まった俺を、会話に飽きたらしい沖田さんが見て。
「ああ、そうだ」
清々しい笑顔で、さらりと言った。
「あの女の人、どうしましょうか」
「なっ……!!」
絶句する。
悪いようにしないと言ったのは、この人自身じゃなかったか?
「……脅迫じゃないか」
そういう近藤さんも、沖田さんを諫めようとはしないのだった。
政府の組織なのに、犯罪じみた真似をするのか、この人たちは。
詐欺グループの方がよっぽどお似合いだ、と、どうにもできない俺はため息をつく他なかった。