バースデー・イブ

 「すいませんお客様」
 ウェイターがあたしたちの席に来る。大声で話しすぎた?と思い
 「ごめんなさい……うるさくて」
 美咲ちゃんが得意の申し訳ないです顏をして手を軽く合わせる。会社に入りたての頃は、よくこの顔をすれば男の上司はだいたいミスをしても許してくれると言っていた。
 「いえ。そうではなくて、ワインをあちらのお客様から……」
 今時そんなやついるの?トレンディドラマでしかやらないシチュエーションじゃないの?と思い差し出した掌の先には感じの良さそうな男の人が立っている。手に握られていた赤ワインはボトルで頼むと2万は超えるもの。

 「わー、レストランコーナーの客じゃん」
 「仕立ていいスーツ着てるね」
「しかもイケメン。しかも、色黒で筋肉質のビジネスマンとか最高」


 「あの……先程はありがとうございます」
 「いえ、大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
 微かにプールオムの香りを漂わせたワインをくれた彼は優しく微笑む。年上の人が見せる余裕がある態度。推定年齢30歳の彼は同年代とは違う雰囲気を醸し出す。
「傷心のお姉さんに誕生日プレゼント」
なんなんだ、このキザなセリフは…こんなことトレンディードラマの俳優すら言わない。
「け、けど、見ず知らずの人からこんな高価なもの…」
「株で儲けたあぶく金ですから気にしないでください。こういうお金って人に還元した方がいいって聞きますから」
将吾ならパチンコで勝っても奢ってくれなかったな…と思い出しながら、
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