バースデー・イブ

  「ちーこっち」
 美咲ちゃんが美桜ちゃんとソファー席にしながら
 「呼び出してごめんねー。ここごちるから好きなの選んでよ」
 そう言いメニューを差し出す。
 商社でバリキャリ目指すと言っていた美咲ちゃんは27歳の時に同僚と結婚をして、今は6ヶ月の子供のママをしている。今は昔ほどキャリア思考はないけれど、産休が開けたら働いて少しでもママが働きやすい環境を作れたらいいと言っている。


 「ねー、聞いた?将吾のやつさ離婚だって。浮気がばれて嫁に慰謝料一括で払え養育費は成人するまで月に2万払えって言われてるんだって。ざまあなんだけど」
そう言い鼻で笑った後、知ってた?と話を振られる。
 「聞いた。将吾から連絡来たよ。この前ね、知らない番号からショートメールきたんだけど」
 「なになに?メールあれば見せてよ」
 ニヤニヤとこっちの気苦労を知らない美咲ちゃんに顔をしかめながらも、この事を話したかったから消さなかったメールを開きスマホを見せる。
 「うっわ、ほんとちーは別れてよかったよ!なに?ふたりの未来を再構築するために一緒に慰謝料払おう?死ねばいいのに」
「本当だよ。あたしにティファニー買うようなバカ女とか言ったくせに…」

 「てか、将吾はちーが金たくさんあるとか大学や高校の同期たちに言ってるみたいよ?」
 「は?なにそれ」
 「ジョーが言ってた。探りのメールきて協力頼んでとかほざいてきた。とりあえず10回死ねよクズ、10回とも無間地獄に逝けって返してやった。だいたいあいつらもさちーに酷いこと言ってよくもぬけぬけと……ああムカつく死ねばいいのに。死ねばいいのに」
 母になっても美咲ちゃんの口の悪さは変わらないなと思いつつも、
 「ネットでコラム書いたりしてるけど、そんな報酬ないのに。むしろ本業はフリー冊子の編集だ。平社員だ」
 「でも、ちーのコラム人気じゃん?きっかけどうしてなの?」
 「中学の同級生がやってる会社でコラム書いたら、他の会社にも頼まれてはじめたらおかげさまで人気出たよ。コラムの他に食レポの話とかもきている。だけど本業の方が評価されたいし、今の仕事が好きなんだよ……」
 「贅沢な悩みだね」
「まあね。A4サイズの紙に写真と文を織り交ぜて、どうお店に行きたいかを思わせる仕事が好きなのよ。恋愛や美容よりお店のこと書きたい」

 「けどさ、あんなバカ男が好きだったことが今思うと黒歴史……」
 「まあ別れて落ち着けばそう思うよ。むしろ嫌なことばかり残ったりするしね」
 「とりあえず拒否設定にしたけど、同級会とかめんどくさいなぁ…わたし嫌味でハリー買う女って言われているもん。ティファニーなのに…ハリー憧れるけど、自分では買えないわ」
「ハリーは男に買わせるものよ!ハリーを自分で買ったらもう女として終わりよ!」

 「大将の居酒屋載っていたよね」
 「ようやく口説き落としたよ。大将メディアは拒否してるけど、今回は特別に出たの」
 「あれ、祐希さんにも送ったの?」
 「送ったよー、そしたら大将からもきたんだって。大将のキメ顔笑えるってラインきた」


 「で、どうなのよ?」
 「なにがー?」

 「祐希さんと」
 「どうもないよ。たまに連絡するくらいだよ。向こうでイベントあると無駄に写真を送ってくるの。あたしがロックフェラーのツリー見たいの知っているくせに」
「ちーずっと言っているからねそれ」
「しかも自撮りしてるんだよ。ほんとムカつく」

「それに、前にユーが帰国した時は、彼氏いたから会わなかったし……」
 「あのさ、ちーの彼氏ができても続かないのは将吾のせい?それとも……祐希さん?」
< 32 / 39 >

この作品をシェア

pagetop