私は初めから病気だったワケじゃない!!
次の日、
Yちゃんのお母さんが、
診察室に呼ばれている間、
お母さんが、
代わりに付き添いを
引き受けていた。

お母さんは、
童謡を唄い始めた。

私は聞きなれているから、
当たり前なのだけど、
お母さんが歌うと、
庭の木に鳥がとまり、
お母さんの歌と共に、
さえずるとか、

初めてお母さんの歌を聞いた外国人も、
絶賛するほど、
英語やフランス語、イタリア語などの発音も完璧で、
プロ並みに上手いらしい。

誰もがうっとり聞き惚れて、
歌手か、音大卒業したのかと、
言われる腕前なの。

Yちゃんは、眼を開けて、
お母さんの方を向いているのを見ると、

歌を聴いているように見える。

お母さんが唄い終えたら、
私だけでなく、
通りすがりの看護師さんやら、
お医者様やら、
隣の部屋の入院患者と付き添いの親御さんまで、
部屋の入り口の廊下で、
拍手をしていた。

「素敵な歌声で、
思わず聞き惚れてしまいました。」

病室で唄った苦情は出ずに、
皆を感激させるほどの腕前なの。

お母さんは、
ギャラリーが増えてしまったのは、
さすがにマズイと思ったのか、

「ありがとうございます。
これで童謡ミニコンサートはおしまいです。」

と、オペラ歌手みたいにおじぎした。

皆、笑顔で、
病室の前を離れていった。

今度は、お母さんは、
スケッチブックを取り出し、
鉛筆で、Yちゃんを描いた。

ぱっちりとした瞳。

くるくるした巻き毛は、
天然パーマなの。

お母さんは、
絵も上手い。

筆記体で、サインを書くから、
欧米の街中の画家さんみたいに、
プロっぽい!!

「かわいい!!」

Yちゃんが、ハーフの子どもみたいに美人に描かれていた。

「ありがとうございました。
あら?
これYちゃんなの!?」

Yちゃんのお母さんが、
病室に戻って来た。

「素人画ですよ〜!
よろしかったら差し上げます♪」

Yちゃんのお母さんは、
感激していた。

今日は、私の退院の日。

入院生活も飽きて来た頃だから、
ちょうどいいわ。

お母さんは、
洗濯しに一度帰るついでに、
あらかたの荷物を運び出したりしていたので、
私のベットは、
元の殺風景な様子に戻っていた。

病室を出る時には、
Yちゃんのお母さんが、
名残惜しそうに、
私を見送ってくれた。

看護師さんたちや、
担当医の先生が、
小児科病棟の入り口まで、
見送ってくれた。

「せっかく良い先生だったのに、
残念です。」

「私は研修医ですから、
研修期間がもうすぐ終わりますので、
自分の勤め先の病院に帰らなくてはいけません。
この病院で私を指導して下さっていました日本ではとても少ない、
てんかんの専門である先生に、
私からお願いしておきましたので、
次回は、
K先生に診察してもらって下さい!」

「はい……。
お世話になりました!」

お母さんにならって、
私も頭を下げた。

てんかんって、
専門医が少ないの?

よその病院から、
教わりにくるほどのK先生……。

どんな先生なんだろう……。

こわい人じゃないと良いな……。
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