おまけのコイゴコロ
「駅の裏っかわに新しくできたイートインできるパン屋さん、行ってみたいって言ってたじゃん。今から行ってみない?」
「え、え……?」
なに? パン屋さん?
突然のお誘い。悶々としていたせいでどこからどうなってそういう流れになったのか全くわからない。急にどうしたんだろう。
戸惑うわたしをよそに、宇佐美はにこにこ、やけに楽しそうだ。
「この後暇なんだろ? 俺の奢りだしさ、ちょっと寄り道して行こ」
「えっなんで、いいよ奢りとか、」
「奢りじゃないとホワイトデーのお返しにならないでしょうが!」
大上って疎いなあ。くしゃりとわたしの髪をひと撫でしながら笑う彼を見上げ、ようやくわたしはハッとした。
ホワイトデーのお返し。そうか。
そういうこと。
ああ、だから紙袋にわたしの分のお菓子が入っていなかったんだ。
そっか。……よかった、クッキーが不味すぎて失格になったわけじゃなかった。
(……でも、どうして)
どうしてわたしのお返しだけ、他の女の子たちと同じお姉さんが作ったお菓子ではなく、パン屋さんなのだろう。
ふと尋ねてみると、やっぱり疎い、と宇佐美はわたしの右手を取り、指を絡めて握り締めてきた。