ご近所さん的恋事情

「お兄ちゃん？あのね…」


傷付いた表情をする渉を慰めようと柔らかい声を出す。


「渉くん！」


「あ、瑠璃子さん」


葵が言葉を繋げる前に瑠璃子が渉を呼んだ。瑠璃子は、外が見えるマンションのエントランスで渉が通るのを待っていた。待ち合わせ場所は焼き鳥屋だったけど、一緒に行きたいと思っていたからだ。


「えっと、お兄ちゃん…こちらの方は？」


「ああ、こちら瑠璃子さん。瑠璃子さん、これが妹の葵」


葵は組んでいた手を離して、頭を下げる。


「はじめまして。葵といいます」


「こちらこそ、こんばんは。永瀬瑠璃子です」


「私、先に行くね。幸紀さんが着く頃だから。瑠璃子さん、お兄ちゃんをよろしくお願いします。お兄ちゃん、今日は帰らなくてもいいからね！」

前の彼女と別れてからの渉を見てきた葵は、ひそかに兄のことを心配していた。だから、兄が新しい恋をすることは嬉しいことだし、応援しようと思う。挨拶しか交わしてないけど、瑠璃子の印象は良かった。兄が幸せになってくれることを心から願った。