狂犬の手懐け方

「……み、見た?」

相馬くんがこっちを向く。
さっきまでのヒカルに劣らないくらい真っ赤な顔。頬が緩んで仕方ないのか、手で口を隠している。

「初めて笑ってもらえた…」

あの小さな微笑みだけでここまで喜べる相馬くんに、正直同情した。

「完全に俺空気だな」

大槻くんが呟いた。確かに、と思う。
まぁでも、まだヒカルは大槻くんのことを認識してないだろうし仕方ないかな。

「とりあえずご飯食べたら?」

私が促すと、大槻くんは大きな弁当を広げた。残された20分の休み時間で平らげれるのかな。

次いでにやけたままの相馬くんが袋から昼ご飯を取り出した。缶コーヒーのブラックとカロリーメイト。どこぞのOLだ。

「え、相馬くんご飯それだけ?」

「……」

相馬くんはさっきのヒカルを回顧しているのか幸せそうな顔でカロリーメイトを食べている。でも答えてはくれない。彼の耳に私の声が届いていないんじゃないかな。

「こいつはいつもこんなもんだ。たまに俺のおかずパクってるけど」

「ふーん」

私は二人が付き合うことよりも、相馬くんの食生活をどうにかしなきゃならないのでは、と思った。

細いとは思っていたけど、まさかこれだけしか食べていないだなんて。
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