狂犬の手懐け方
「あ、そうだ。朝は無理言って悪かったな。
別に今のままの呼び方がいいならそれでいい。お前が嫌なら私も元に戻すし」
犬塚は相馬に向かって言った。俺から見えるのは犬塚の背中だから表情はわからない。
だけど空気的に、相馬の男が試されている場面のような気がする。頑張れ。
「ヒカル」
相馬は自然にヒカルと呼んだ。
さっきまで、あんなにぎこちなかったのに。
これが負けず嫌い男子の本来の力なのか。
「呼び方くらいどうとでもなるに決まってんじゃん。
この程度で無理するなんてありえないよ。小学生じゃあるまいし」
相馬はペラペラと話し始めた。
だけど内心嬉しくて仕方ないはずだ。
「あっそ。まぁなんでもいいや。
じゃあ私行くから」
犬塚は足を引きずることなく、歩いて保健室から出て行った。