ラブモーション
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佐緒がいなくなったあと、碧衣は裏倉庫でただ一人、取り残されたように呆然としていた。
佐緒の涙は、碧衣にとって初めて見た涙だった。
碧衣がどんなに酷いこと命令しようが、みんなからどんなに屈辱的なことをされようが下唇を食い縛って、決して涙だけは見せないような女だったのに。
正直、動揺していた。
あんな気丈な女が、自分に涙を見せた。
今の今まで、碧衣は自身の手で彼女に手をかけたことは無かった。
恐ろしかった。
記憶の彼女と被らせて、消し去ろうとやみくもに反抗するも、彼女は消えない。
それが忌々しくて、悔しかったことなのに。
さっき彼女が見せた涙で、今彼女が消えそうな今。
碧衣は彼女が消え去ることを恐れた。
今まで消えてほしいともまで願っていたことなのに・・・。
碧衣ははっと我に返ると、ポケットから携帯電話を取り出して電話をかけた。
「・・・小鳥が逃げた。すぐに追え。」
それだけ言うと、乱暴に会話を途絶えさせポケットにまたそれを突っ込む。
自分が何をしたいのか分からない。
だけど、さっき彼女が飛び出していった裏倉庫から、自身も飛び出した。
心地よい風が、頬を撫でてくれた。