ラブモーション
兄の部屋に一歩足を踏み入れ、顔を上げた瞬間だった。
「っ、」
耳を劈くような雷鳴が響き渡り、雷の光がピカッと光った。
真っ暗な中、そのときに見えた、今の光景。
真っ黒な帽子を被って、真っ黒な服を着た黒ずくめの男が、兄のベッドに片足をのせてこちらを見つめていた。
そして、その男の足元に転がるのは・・・・・・
兄の、見ていられないくらいにめちゃめちゃになった姿。
血まみれになって、肉片のように細切れに切り引き裂かれた兄は、もうあの優しい笑みを浮かべる兄ではなくなっていた。
突然のことに頭がついていかず、呆然とその光景を見つめていた私は、また男のほうに視線を向けた。
すると、男は何を思ったのかその場に包丁を投げ捨てると、私にニヤリと笑ってこう言ったのだ。
「・・・また会おうな。」
また会えるかなんて、保証など無いのに。
無縁ともいえる私と男の関係。いや、この事件が起こってしまった瞬間から、男とは解けない糸に絡みつかれてしまったのかもしれない。
そして、窓ガラスを体当たりで突き破り逃げていく男。
私の頬には、涙が流れた。