この気持ちは、気付かれない。
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トイレの個室に入って、ずるずると座り込んだ。
心臓も痛いし、お腹も痛いし、寒い。
……どうしてわたしはこんなにずっと秋のことが好きなんだろう。
秋が優しいわけじゃないのに。
秋がわたしを見てくれるわけじゃないのに。
……秋の好きな人は、ずっと変わらず優衣なのに。
何年か前にも、一度崩れたけれど、こんなに酷くはなかった。
あの時は兄貴がそばにいて、わたしは頼る場所がまだあった。
あの時ぶりに、涙が流れた。
あの時と違うのは、わたしはひとりぼっちだってことだ。
トイレから出てもそのまま席に戻る気にはなれなくて、カウンターの端っこに座った。
「皐月、戻んなくていーのか?」
そう言いながらも、マスターが飲み物とチョコを持ってやってきた。
「少しくらい、いいでしょう。」
少しだけ口を緩ませて、言う。
馴染みのマスターの笑顔を見ていると、とても気持ちが落ち着く。
暖かいタオルと、薄めのホットウイスキーがわたしの前に置かれた。
「お前たち、全然タイプが違うのによく集まるな。」
「そう?」
「まー根底は似てるのかもしれんが、俺は皐月のことしかよく知らねえからわからん。でもタイプ違うだろ。皐月は大人しくて悩みは抱え込むだろ、優衣ちゃんは年中お花畑の癒し系だし、秋は爽やか能天気で、弘は寂しがり屋の兄貴肌。」