風
ずっと見ていた。
この場合、その言葉の意味はどういうニュアンスで受け取ればいいのか。
「5年間、ずっとか?」
「はい、ずっと、です」
「なんで俺はそれを知らない?」
5年も見ていたということは、それだけ関わりがあったってことじゃないのか。
それなのになぜ俺はこいつの存在を知らない。
俯いているから表情はわからない。
だけどほとんど無意識に俺はそいつの手を握った。
すぐにきゅっと握り返してくる。
「こら、黙ってたらわかんねー」
出来るだけ優しい声でそう言った。
握った手にさっきより力を込めた。
「………好き、なんです」
目を見開いた。
「佐伯さんのことが、好きなんです………」
額を膝にくっつけて、体を小さく小さくしてるそいつの声が震えてる。
相当な勇気を持って伝えてくれているのだと知る。
ああ、ずっと見てたって、そういう___。
肝心なことは全然言ってくれないのに、そういうことは言えんのな、こいつ。