「…そろそろ戻るか」


俺がそう声を出した時にはもう日が暮れかけていて、だんだん肌寒くなってきていた。



もう、帰らなくていいのか、なんて言えなかった。

帰るか、じゃなくて戻るか、と声をかけたのは、隣の奴に自分の家に帰ることを思い出してほしくなかったから。



俺の家まで向かう途中で、ファミレスで晩飯を食った。
お金を持ってないからって遠慮する腕をつかんで無理矢理に。


引き留める方法なんてわからなかった。
ただ、出来るだけ長く一緒に過ごしたくて、女が帰ると言い出さないのをいいことに俺の家に二人して帰ってきた。



交代で風呂に入り、ソファーに並んで意味もなくテレビを見た。

この女優は可愛い、この芸人は面白くないだなんてどうでもいい会話をしながら。



「佐伯さんちのテレビおっきくていいなあ」

「すごく立派なキッチンなのに滅多に使わないなんてもったいない」


そんな言葉を聞くたびに、じゃあここにいたら?って口を滑らせそうで焦った。



ソファーの上でぴったりくっついてくるのも、最初みたいに動揺しなくなった。
逆に落ち着く。



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