風
結局その日、そいつは自分の家に帰らなかった。
二人とも何も言わずに、今度は当たり前のようにベッドに一緒に入った。
ふふっと小さく笑ってまた俺の体に抱き付いて、胸に顔をうずめてくる。
良かった、今日は泣いてない。
たった一日一緒に過ごして、こいつが泣きたい気持ちを俺が抑え込めたのなら嬉しい。
「何笑ってんだ」
「ふふ、なんでもないです。佐伯さん、あったかい」
「お前のほうが体温高くて子供みてえ」
「ええーひどい!」
ふくれっ面で顔を上げた彼女の顔を両手で包む。
目が合って、そいつが息を飲むのがわかった。
ちょっと緊張してるような、期待してるようなそんな顔。
…俺も同じような顔してんのかな。
だとしたらかっこわりい。
ゆっくり顔を近付けて、今日は唇にキスをした。
「…おやすみ」
「…おやすみなさい」
おでこをくっつけてそう告げた。