風
昼。
久しぶりに社員食堂に来た。
いつもは会社の外に出て、弁当を買いに行くか定食屋に入るか。
だけど今日はやめた。
会社の外に出たらせっかく仕事モードになってくれた脳がまた戻ってしまいそうだからだ。
社員食堂に来るのは、まだこれで2回目。
働き始めたばかりの頃に1回来て、上司に声をかけられるのが嫌でそれっきりになっていた。
カツ丼…いや、そんなヘビーなもん今ちょっと食えねえや。
うどんにするか。
トレーを手にとって食堂のおばちゃんに声をかけようとした。
すると、入口から賑やかな話し声が聞こえてきた。
「カオリ、今日何食べる?」
「んー、うどんにしようかな…」
「ええ?どうしたのいつもがっつり食べるじゃない」
「うん、なんとなく食欲なくって」
その声に勝手に体が反応して、振り返った。
「!」
「!?」
カオリと呼ばれていた女と目があった。
嘘だろ…まさか、いや、なんで。
すると女は突然背を向けて逃げた。
俺はトレーをがしゃんと戻して、気付けば走り出していた。
「待て!お前…!」
女は振り返らない。