風
4階に着いてエレベーターを降りた。
…風が、強い。
さっき外を歩いてたときはそんなことなかったのに。
甘い。
キンモクセイの香りが広がっている。
まさかこの階に住んでる誰かが育て始めたのか?
いや、俺の記憶が正しければあれは木だったはずだ。
家の中で育てる奴なんかいないだろ。というか無理だろ。
じゃあ何なんだ。
この香りが嫌いな奴からしたら軽く拷問だろ、これ。
俺は嫌いじゃないけど。
すこし先にある自分の家のドアを見てぎょっとした。
なんかいる。
なんだあれ。
少しずつ近寄ってみる。
…女?
知らない女が俺の家の前に座っている。
元カノ?違う。
妹?…でもない。
姉?…いないいない。
目の前まで歩いて立ち止まる。
なんだよ、家入れねえだろ。
「…あの」
声をかけてみた。
すると女はガバッと顔を上げた。
いや、まじで知らねえぞこんな女。
女は立ち上がった。
白いワンピースを着て、色素の薄いロングヘアーをなびかせている。
丸い大きな目が俺を捉える。