わかった。この香りの原因はこいつだ。
瞬間的にそう思った。


だってほら、小さい身体が放つ強烈な存在感が…まるでキンモクセイみたいだから。




「そこ、俺ん家なんだけど。尋ねる家間違ってんじゃね?」

「佐伯、さん」

「は…」

「佐伯楓さん」



小さい口から漏れたサエキカエデ、というのは確かに俺の名前だった。



「遅くまでお仕事お疲れ様でした」



なんだこいつ怖い。
人の家の前で座り込んでたと思ったら俺の名前を知ってる。今まで仕事だったことも。


だけど俺はこいつを知らない。

玄関横のネームプレートにはそっけない字で”佐伯”とだけ書いてある。
下の名前を知られてるってことは知り合いか?友達の友達とか?だけど見た感じは俺より少し年下だろう。俺には年下の知り合いなんて、学生時代やってたバイト仲間だとか部活の後輩だとかしか思い付かない。

…だめだ、自分で考えてみたって迷宮入りするだけだろ。



こんな夜中に、男の家の前で待ち伏せなんて。漫画かよ。





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