「お前誰」


そう尋ねると女の肩がびくっと動いた。
怖がってるようにも見える。
怖いのは俺のほうだっつの。



「あー、悪い、知り合いだったか?覚えてねえわ」

「私は、風です」


はいはいはい、なるほど、頭イカれちゃってる系か。


「なに?」

「…風です。私は、風です」



ふうん。
ちょっと面白くなってきた。


「俺、風に知り合いなんていねえんだわ。…何の用?」

「一晩、家に泊めてくださいませんか」



あー、俺だいぶ疲れてんのかな。

確かに今週はなかなかハードだった。
帰りは遅いし、会議やらなんやらで朝も早かった。
一人暮らしでロクなもん食ってねえしな。



「無理を承知でお願いしています。一晩だけ、一晩だけでいいんです」

「いや無理だろ」

「!」



…オイ、なにちょっと泣きそうな顔してんだよ。
こっち別に何も悪くねえし。

こんな時間に女一人で外にいたら物騒だとは思うけど、俺以外に頼れる奴ぐらいいるだろ。
第一、お前は風なんだろ?



…なんだよその上目遣い。
しかもその格好絶対寒いだろ。
こんな時間にフラフラしてたらどっかの誰かに襲われても文句言えねえぞ。






< 7 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop