失恋バレンタイン
ラッピングにいつもよりも凝って、いつもより慎重に持ってきてみたり。


『放課後、いつものとこで渡すから』そう伝えて、君は了解、とニッと笑った。


人通りの少ない、西階段。


毎年そこに呼び出して、告白しようとしたけど、毎年、もう一歩のところで勇気が出せなかった。


震える手に力を入れて、深呼吸をする。


大丈夫、大丈夫。


自分にそう言い聞かせる。


そこに、君の足音が聞こえてきた。


「志乃?」


何も知らずに私の名前を呼ぶ、君が恨めしい。だから、少し機嫌が悪いようなフリをして、口を尖らせ、君を責めた。


「もう。遅い」


「悪い、笹野先生に捕まっちゃって」


「何やってんの」


「いやー、何もしてないよ?廊下を全力疾走しただけ」


「やってんじゃん!」


機嫌が悪いようなフリをしていたのに、君と話すといつの間にか笑っている自分がいる。そのことに気付く度にあぁ、好きだな。と胸が痛む。


気持ちを伝えて諦めようと決めた今日だって、同じ。


あーぁ。私って、学習しないのね。


「はい。これ、バレンタイン」


「おぉっ!サンキュッ!」


本来の目的を思い出した私は、勝手に照れて、焦って、どうしたら良いのか分からなくなって、無愛想に渡してしまった。君は嬉しそうに受け取るけど、私は後悔だらけ。


あーもう!何してんのよ。少しくらい可愛げ見せなさいよ、自分!渡すタイミングも言葉も他にたくさんあったでしょう。


「今年もガトーショコラ?」


「そうよ」


「やった。お前のガトーショコラ、好きだよ」


知ってるよ。だから、毎年作ってるんじゃない。


目をキラキラ輝かせて笑う君に、私は覚悟を決めて、ゆっくりと口を動かした。


「……あの、さ」


「ん?」


「ずっと、言いたかったんだけど……」





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