あの頃に戻れるなら〜記憶〜

最後の夏

そう、それから父は私が小学四年の時に病気になった。
毎日顔を歪ませて痛みに絶えている毎日であった。
それを見て母はいつも病院に行くように進めていたが父は断固拒否していた。
幼いながら、病気と無縁の私は妹弟達と無邪気に遊んでいた。

しかし、私は両親の空気を感じて
気づいていたのかもしれない。
『いつか、この幸せの時間が終わるのではないか。』と幼いながらに
その考えが怖くなり夜、一人になると布団の中で声を殺していつも一人涙を流すこともあった。

父はその夏に胃癌の手術をして4分の1だけ胃を残して無事に手術が終わり退院した。
痛みも引いてきて
まだあと十年は長生きできそう…
そう、皆が安堵したんだ。一家の大黒柱である父も『俺になんかあったら…』と不安も大きかっただろうに。

そんなある夏、父は私とすぐ下の弟を誘って海に潜ってサザエ、アワビをとるコツを教えると言った。
正直、父は潜る名人だ。
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