蜂蜜漬け紳士の食べ方


「どうせなら君もシャワーでも浴びる?
もし気にならないなら、風呂を貸すけど」

「えっ」



アキにすれば『今日、泊まっていく?』とほぼ同義語に聞こえたその誘いに、彼女は思いがけず声を裏返らせた。


彼からすれば、何度かアキと清い夜を過ごした仲であるのだから
この言葉にはきっと何の下心がないのだろう。



しかし今は違う。

あの時も、
その時も、
彼と彼女は『取材をされる画家』と『取材担当者』であって、今は曲がりなりにも『男』と『女』だ。

…いくら年が離れていようが、いまいが。



嬉しさ半分と不安を混じらせたアキの笑顔は、本人に意図せず暗いものに変わっていた。


彼がそれに気付いたのか気付かないのか。

伊達はワシワシとタオルで髪をかきあげながら、飄々と続きを言った。




「…ああ、でも家に帰るまでに体が冷えてしまうね」


「あ、あー…そう、ですね」

「止めた方がいいな」

「…そう、…ですね」



伊達がリビングへ行ってしまったところで、アキは明らかに自分が落胆していることに気付く。

もし今万が一、
あり得ない話だとしても、
1パーセントの確率で、
彼から「今夜は泊まっていかない?ベッドは一つしかないけれど」なんて言葉甘く誘われたとしても、嬉しさのうち、確実に不安な気持ちは含まれるだろうに。



「……」


彼女の乾いた唇から、小さくため息が漏れ落ちた。

床へ落ちた視線の途中、自分のブラウスが目に入る。
しかしそれはもうくしゃくしゃで、ついでに言うならば、女性的な胸の膨らみもそう大きくはなかった。


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