蜂蜜漬け紳士の食べ方

生乾きの髪のまま、伊達は冷蔵庫から取り出した缶ビールを開ける。

そしてソファに座り込み、大きく缶を煽った。


一見してリラックスモードの彼だが、しかしその様子にアキはどうも納得がいかない。


「…伊達さん、また風邪引いちゃいますよ」

「うん?」

「髪。濡れたままだと、前みたいに風邪引きますよ」



ぐいと缶をもう一度傾けながら、伊達は話半分に返す。



「…そのうち乾くよ」

「そんなこと言って、前も風邪を引いたじゃないですか」

「うーん…」

「伊達さん」



伊達はいよいよ、缶をテーブルへ置く。

そして何を思ったのか、首に回していたタオルを取り、彼女を見上げる。



「じゃあ、君が乾かしてよ」

「……子供じゃないんですから」


ハハ、と乾いた笑いを漏らしたのはアキだった。

そこには少なからず照れもあったのだが、伊達はもちろん感知などしない。


その年齢に似合わない言い草を、彼は「もうアキから面倒なことを言われない為」の切り札に使ったのだろう。

「ならいい。面倒だからこのままにする」と、実にあっさりと引き下がったのだ。


彼の好戦的な物言いに、アキは簡単なくらいに煽られる。


少しソファから遠のいていた足を一気に伊達につけ

隣に座りこみ

彼の手にあったタオルを剥ぎ取った。




「分かりました、タオル貸して下さい」


一瞬、伊達は呆けたように目を見開いたのだが

しかしそれはアキに気付かれないうちにすぐさま、余裕のある笑みに変わった。



タオルを掴んだアキの手が、彼に掴まれる。

そして華奢な手首は、そのまま伊達に引かれた。



声なんて、上げる間もなかった。

それくらい簡単に、アキの視界は一瞬で白いトレーナーに変わったのだ。

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