蜂蜜漬け紳士の食べ方
考えてみればここ最近、吹き出物のケアどころかまともにゆっくり洗顔すらしていない。
これは年頃の女子としていかがなものか。
ディスプレイに羅列される文字の大群。その背景に、アキの自嘲的な笑いが映り込む。
味の濃いコンビニ弁当や、編集部で頼む夜食では、野菜なんてオカズの下敷きになったペラペラのレタスや色どり役のネギくらいしかない。
元々胃が丈夫な方ではないアキの舌は、ここ一週間で口内炎のオンパレードだった。
『今日あなたが食べたもので、明日のあなたが作られます』。
ふと、先日の食堂で見た食生活改善ポスターの一文が思い起こされる。
昼食兼夕食として、『バリカタ豚骨醤油ら~めん超大盛り!』を食べた明日は、一体どういう『自分』になっているのだろう。
おそらく、てんで駄目な女子になっているに違いない…。
そんな雑な物思いを途切らせるように、事務机上のスマートフォンが大きく震えた。
キーボードから左手は外さないままで、アキの指が画面ロックを解除する。
メールの送り主は、伊達圭介だった。
『今夜は大丈夫かい?』という、何とも曖昧で、かつアキには充分意味を成すメール文に、アキは少しまともな思考を取り戻す。年頃の女性らしいソレを。
彼女の腫れぼったくなった目が、その文字から素早く自分の腕時計へ移る。
今日は彼と一緒に夕飯を食べる約束をしていたのだが、それはあっけなく反故になりそうだ。
「…ちょっとトイレ」
綾子に聞こえるか否かの小さな声量で「席を立つ言いわけ」をぼやき、彼女は席を立った。