蜂蜜漬け紳士の食べ方
綾子が乱暴に鼻をかんだタイミングで、アキはようやく会話の端を切り込んだ。
「…あ、あのさ、綾子」
「はい?」
綾子の腫れた目が、目の前の先輩を見上げる。
「やっぱりー…あれかなぁ、長時間男女が密室で二人きりって、危ないものなのかな」
何気なく。
何気なく切り出したアキの不安に、泣きっぱなしの後輩はもちろん噛み付いた。
「当たり前じゃないですか!仕事だなんだって言ったって、結局男と女なんです!」
今やメロンクリームソーダのアイスは、散々アキにかき回されたせいで緑色に紛れてしまい、やたら消えない泡だけが表面に汚らしく浮いている。
アキはもはやソーダには目もくれず、口は本人の思いとは真逆にぎこちなく半円を描いた。
「そ、そう…そういうものなのかな」
「実例が目の前にいるじゃないですか」
綾子は再び鼻を噛む。
自虐的な回答に、アキはただ一言、こう言うほかなかった。
「……ごめん」
それから綾子の気が済むまで話は続いたのだが、無理やり流し込んだメロンクリームソーダはいつまでもアキの口に甘ったるく残っていたのだった。