蜂蜜漬け紳士の食べ方
しばらく走ると、アキを乗せた外車はすっかり市街地から離れた。
20分の短いドライブの末、着いたのは少し小高い丘にある公園駐車場だった。
この遅い時間では珍しく、数台の車が同じように駐車場へ停まっている。
駐車場の一番奥へ車を入れると、そこでようやく伊達はハンドルから手を離す。
彼の手がエンジンを切る。
途端に車内には、重苦しい沈黙がのしかかってくるようだった。
「…で?何か私に話したいことがあるんじゃないのかい」
暗闇の車内に、伊達の声がぽつり浮かんだ。
ここに来てまでも、彼の口調はどこか刺々しいものがあった。
例えるなら、初めて取材で逢ったあの日よりもしかしたら…。
アキは、咄嗟に『あの雑誌』を思い出した。
掲載されていた写真は白黒であったのに、それでも脳内にはありありとカラーで浮かび上がる。
あの女性は誰ですか?
二人で夜にお出かけしたんですか?
けれど言葉はどうも気持ちの量をまとめきれず、口から出ようとはしない。
代わりに出たのは、実に無難で安全で卑怯な言葉。
「…個展開催、おめでとうございます」
「……ああ、ありがとう」
しかしその返答に伊達が満足していないのは、明らかだった。
カチャリ。
男が、自身のシートベルトを外した。
叶うなら、この重苦しい空間からすぐにでも飛び出してしまいたかった。
それほどに伊達の視線は刺々しく、声色は冷淡だったのだ。
だけど、この小さな車両から逃げ出してどうするというのだ。
ここがどこだかも分からない。ほとんど監禁に近い状態だ。
何も話そうとしないアキを一瞥し、伊達はゆっくりとハンドルへ上半身を預けた。
どこか気だるげに、外を見る。
「…ここ、有名なんだよね。カップルのカーセックスの穴場として」