蜂蜜漬け紳士の食べ方
中野が自分の腕時計に目をやった。
いつのまにか約束の時間10分前を切っていた。
「大分お時間頂きましたね、ではそろそろ……おい、桜井」
中野にひっそり小突かれ、アキはようやく自分が仕事を果たしていない事態に気づく。
「失礼致します、オオシマさん、写真を一枚よろしいでしょうか」
「ええ、どうぞ」
カシャリ。
彼女が言う『一瞬の瞬き』に、柔らかく人懐っこい笑みが写る。
「本日はお忙しい中、お時間を割いて頂きありがとうございました」
中野が立ち上がる。
オオシマも立ち上がり、そして持参していたバッグから小さな袋を差し出した。
「もしよろしかったら、お二人で召し上がって下さい」
可愛らしい青のリボンで装飾された、ころんと丸いクッキーだった。
「お菓子作りが趣味なんですが、ちょっと昨日作りすぎてしまって…」
「えっ、いいんですか」
中野がすかさず反応し、クッキーを二つ分受け取った。
「お口に合えば幸いです」
「わあ、ありがとうございます」
本当に、憎らしいくらい嫌味な女の人だったらよかったのに。
私が優越感を感じるくらい、嫌いになりたかったのに。
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