蜂蜜漬け紳士の食べ方
「はーいお疲れえ!よく頑張りました!」
ブラインドカーテンから朝日が差し込む頃合いになって、ようやく編集長の声が張り上げられた。
徹夜明けの日射が攻撃的に徹夜明け組の瞼を突き刺してくる。
ともかくも彼女は、中野が復帰したら何を奢らせようかと考えることで苛立ちを外に逃がしていた。
「提出忘れが無いか確認したら、始発で帰ってくれー」
編集長の声を合図に、既に仕事を上げていた編集部員達がデスクの片づけを始める。
綾子もそれに紛れるように鞄へ筆記用具やスマートフォンを詰め始める。その手つきは大分乱暴になっていた。
「先輩…、帰りましょう~」
「あー…そうだね…本当、もう、死にそう」
午前2時を過ぎたころは、眠気のピークを越えたハイでもう一徹くらい出来そうにも思えていたが
一旦集中力が切れてしまえば、眠気と疲れは怒涛のように体と頭へ押し寄せてくる。
叶うならこのまま編集部の床に伏せて寝たいくらいだったが、人間としての最後のプライドがどうにかアキを思いとどまらせていた。
「それでは編集長、お先に失礼致します…」
「おーう。ゆっくり休めよー」
編集長は力ない笑顔のまま、綾子とアキへ軽く手をあげた。