蜂蜜漬け紳士の食べ方

伊達からの希望で、彼のマンションで会う事となった。

この気まずいシチュエーションである中、伊達のマンション内ではどう頑張っても二人きりということに、アキは密かにガッカリした。

仕事をそこそこに終わらせ(というより、今の彼女には残業する気力もなかった)、差し入れもなく、マンションへ上がる。


「やあ、いらっしゃい」

「……こんばんは、お邪魔します」



彼との仲は少し硬直していると彼女は感じていたのだが、伊達は相変わらずのだらしないセーターとジーンズで、相変わらずの気だるそうな雰囲気のままアキを迎えた。

当たり前だが、玄関にあのハイヒールは無かった。


「突然悪かったね」

「いえ、仕事も落ち着いてきたので」


通されたリビングは、何も模様替えもないまま。
なのにどこか居心地の悪さを感じるのは何故だろう。

伊達はくしゃくしゃの髪を無造作に掻き、紅茶でも淹れるよとキッチンへ足を向けた。


「あの、伊達さん」

「なんだい」

「見せたいものっていうのは……」


早々に切り出された本題に、伊達はあっさりと「ああ」とうなづき、近くの本棚から四角い何かを取り出した。

アキの目の前、テーブルへ置かれたそれは、週刊誌だった。


その見慣れた表紙は、いつぞやの『伊達圭介、恋人疑惑』が載った週刊誌だ。


「……」

アキは極力表情を歪めないようにしたのだが、それに果たして気づいたのかどうか、伊達は軽い溜息混じりに言った。

「見たかい」


「……あ。ええ、まあ、編集部で」

「そう、なら話が早いか。
大分フォローが遅れてしまって悪かったね。君が心配するようなことは何もないから」


あっさり。
実にあっさりと、軽く、伊達は週刊誌の記事を否定した。

しかしそれでもアキは、目の前に置かれた週刊誌に手を伸ばすことは出来なかった。


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