蜂蜜漬け紳士の食べ方
──いいですか、先輩!
「ちゃんとパーティ当日にはこのドレス持ってきて下さいよ!で、お化粧とかヘアセットは私がやりますから!」
「……分かりました…何でそんなにやる気満々なのよ…」
「だぁって、これでキャンバニスト編集部の評判が良かったら、また業界人のパーティに編集部員を呼んでくれるかもしれないじゃないですか」
いよいよ、金曜日の朝。パーティー当日。
前日夜に綾子と交わされた会話を苦々しく反芻しながらも、アキは昨夜買ったドレスを素直に会社のロッカーへ押し込んだ。
伊達からの連絡は、もちろん無い。
「よう、おはよう桜井」
「あ…おはよう中野くん」
コンビニで買ったコーヒー缶を煽りながら、中野は飄々と笑った。
「ちゃんとパーティー用のドレス買ったのかあ?綾子がしきりに気にしてたぞ」
「まあ、…うん。この年でも堂々と着られるものを選んでもらったの」
「ははは。何だそれ」
「そういえば中野くん」
「んー?」
「伊達先生と小河原先生って、付き合いあるの?今夜のパーティーに来るんでしょう?」
アキの問いに、二度ほど缶を煽りながら中野が曖昧に唸った。
「ないんじゃないの?付き合い」
「えっ」
「だって、あの『人嫌い・伊達』と『ナルシスト・小河原』だぜ?
お互いがお互いに、こいつと付き合うのは人生の無駄だ、とか考えてそーじゃん。ははは」
「じゃあ何でパーティーに呼ばれてるのよ…」
「そりゃあお前、スポンサー会社が小河原先生を招待したからだろ。
普通に考えて、走りの画家同士の接点を無理にでも作っておけばのちのち広告になるだろうし。
だからこそ、伊達先生のパーティー出席者に小河原先生がいるって情報もいち早く俺らに流れてるんだろ」
昨日の綾子の話と、推測と、予測が、頷くものに変わる。
何の偏見無しに見たとしても、どの世界であっても人間関係を築いておくことは今後の活躍にも影響するのだから。
良くも悪くも。
「ある意味、伊達先生も被害者だな」
「…喧嘩しないといいけど」
「二人ともそこまで子供じゃないだろ、あははは」
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