風紀委員長のとある事情
後ろから突然聞こえた柔らかな声が、詩織を無意識に振り向かせた。
この廊下には茶髪の人と詩織しかいない事を無意識に頭にあったのだろう。
自分に向けられた声だと分かってはいるが何故か詩織は茶髪の人からの言葉を待ってみた。
柔和な声に似合う垂れ目がちのおっとりとした目とは反対にぷっくりとした唇には少し色っぽさを感じる。
「甲斐原詩織さん、ですよね?」
自然に口角が上がった笑みを浮かべ小動物のように小首を傾げる茶髪の人。
「あ、はい」
「やっぱり。拓真から聞いてるよ、詩織ちゃんのこと」
「し、詩織ちゃん!?」
「ん? ダメかな?」
「え、あ、いやダメじゃあ、ないです...」
何年ぶりかにちゃん付けで呼ばれ、頬を赤くしつつも一つ思い出した事があった。
あの時の人だ!
あの拓真呼びしてたあの人。
千堂に唇を奪われたあの朝の時に、
千堂を呼び出した人!
詩織は覚えているが、
この茶髪の人が詩織をあの時見たかは微妙だったので、あの朝の事は言わずに松永さんの言葉に耳を傾けた。