幕末の恋と花のかおり【完】


「花織おはよ!」
「梨花〜! 単語帳持ってる?」
駅から電車に乗る。快速電車は通過してしまうような小さな駅だ。
「うん。」
「後で見せて〜!」
お願い、と手を合わせて見つめた先の友人の表情は柔らかくて、いつもの日常にほっとする。
学校の最寄り駅で、なぎ、ありさ、みずき(みっちゃん)の三人と合流し、朝のチャイムがなる直前に違う方面に住むあかりが教室に入り、同じグループ、いわゆるいつめんがそろう。
移動教室も、休み時間もいつも一緒。

「ねぇねぇ! みんな聞いて!
私、彼氏できたんだー!」
ドヤ顔をしたなぎに真顔であかりが答えた。
「え! リア充爆発しろ!」
その三秒後。
「っていうのはうっそー鼻くっそ〜丸めて食べたらしょっぱい〜!」
どうやらなぎはそれが言いたかっただけのようで。彼女は鼻をふくらませ、得意気に花織たちをみた。
「あっはははははははははー!」
思わず花織は大爆笑をした。
「相変わらず笑い声がけたたましい〜」
といいながらも、ありさは引き笑いをして、呼吸が荒かった。梨花も、あかりも、みっちゃんも。みんな笑っている。
花織の高校生活は、暗黒の中学時代とは真逆の鮮やかな毎日だった。
「みんなに会いたい。」

「あなたは帰りたいの?」
誰かの声がする。
「わからない。」
声も出ない。
「あなたは女性に刺されたのよ。正しいと思って行ったことで恨まれる。そんなの嫌でしょう?」
「……。」
答えることができない。
「だから、こんな時代は捨てて平成に戻りましょう?
ここにいてもたくさんの人の恨みを買うだけ。松田花織の居場所はここではなく平成なのよ。」


ーーーーー私はここにいてはいけないの?




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