幕末の恋と花のかおり【完】
近藤は、局長室に古株の幹部と、山崎を呼んだ。
この光景を見ると、初めて幕末に足を踏み入れた日のことを思い出す。
最初は、不安だらけの毎日だったけれど、いつの間にか慣れていって、気がつけば大好きな毎日になっていた。
この数ヶ月で、私はきっと変われた。
強くなれて、優しくなれた気がする。
だからこそ、この時代に別れを告げるということがこの上なく寂しい。
「花織、帰っちゃうんだな……。」
平助くんは、いつだって私を笑顔にしてくれた。
初めて人を殺めてしまったあの日。あなたがいなかったら立ち直ることが出来なかったと思う。
ありがとう。
「おい〜。俺を置いてくなんて寂しいことするなよ〜!」
左之さんはいつもちゃらちゃらしてたけど、戦いになると真剣で、頼りがいがあった。
私の憧れでした。
「花織……! 俺のこと忘れんなよ!!」
しんぱっつぁんは、面白くて、実は男前で……。
いつも私のおかずをとるのはどうにかして欲しかったけど、そんなやりとりも二度とできないと思うと悲しいな。
「松田くん。お疲れ様。これからは自分たちに任せてください。」
小さなことにも気づいてくれた、源さん。
私もいろんな人を支えられる、あなたのような大人になりたいです。
「君と一緒に土方さんをからかうの。すごく楽しかったよ。」
いま思い返すと、私を浪士たちから助けてくれて、この屯所まで運んできてくれたのは、沖田さんだった。
最高の出会いをするきっかけをくれて、感謝してもしきれません。
また土方さんをからかえないなんて、悲しいよ。
「四馬鹿が三馬鹿に戻るなんて、静かになるな。」
相変わらず、土方は出会った時と変わらず、無愛想な美青年のまま。
……でも。
「あ、土方さん! 泣いてる!」
「平助うるせぇ! そういうお前だって泣いてるだろ!」
感情がしっかりあることを知った。
こんなときまで、新選組のみんなはいつも通り過ぎて、涙が出てくる。
「山崎くんと松田くん。」
近藤がふたりの名前を呼んだ。
「今日だけは門限を破るのを許そう。
五山送り火でも見てくるといい。」
やっぱりこの人はすごい。関わっていないようで、山崎と花織の関係を察していた。
「ありがとうございます。」
答えた山崎の声はかなり、震えていた。
「皆さん、今までありがとうございました。」
そう言ってお辞儀をして、別れが現実味をだんだんと帯びてきて、なんて表せばいいのかよくわからなくなってくる。
楽しくて、暖かい半年間だった。
いつまでもみんなと歩いていたかった。
別れなんて、来なければいいのに。