幕末の恋と花のかおり【完】
「急だったからなんにも用意できてなくてごめん。」
「左之さんそんなそんな! 気を使わないで!」
四馬鹿で、甘味処に来ている。もちろん、花織がこの時代で初めて行ったお店だ。
「今日は俺らの奢りだから好きなだけ食えよ!」
「ありがとう!」
可愛らしい女の人が注文を取りに来て、とりあえず頼む。
「汁粉一つと団子五本!」
「じゃあ、俺は餡蜜で。」
「僕はお汁粉ください。」
「自分はみたらし団子三本で。」
四人は注文をし終わって笑った。
「みんな初めて四人でここ来た時と同じの頼んでる〜!」
平助が楽しそうにいうから、思い返してみると確かにそうだ。
「ほんとだ!」
花織も、原田も、永倉も。みんなで笑った。
「花織が来てから帰るまで、なんだかあっという間だったな。」
食べ終わって、お茶を飲んでいる時、原田が思い立ったように言った。
「そうだな……。」
「うん……。」
どこか寂しげな雰囲気がただよう。
「私は、皆の心に残れたかな……。」
茜色の夕日が差し込む、京の黄昏時。
隣の店から聞こえる琴の音色が、金色の空に楽譜を描いている。
「十分くらいだよ。」
「本当に、ありがとうな……。」
「絶対、忘れないから。」
「私だって、忘れない。
幸せで、深い日々をありがとう。」