幕末の恋と花のかおり【完】
この涙について、誰も触れないでいてくれた。
目を凍ったペットボトルで冷やし、腫れが引いてきたところで、再び観光を再開した。
やはり、持つべくは友である。
たくさんの人とすれ違った。
その全員の中からあの人を探したけれど、やっぱりいない。
本当に百五十年の時は過ぎてしまった、と悲しくなる。
“時の流れの虚しさに
心をそっと枯らしてた
こらえきれない現実から
逃げ道を探したりして
for you/imim”
山崎たちがいない毎日は、楽しくても色めきがない。
何かある度に昔と比べて、切なくなる。
時の流れの虚しさを思い知る。
……そんな心境に、この曲はよく合う。
浅葱色の空を見上げる度、今でも山崎を、新選組のみんなを思ったり、
また会えないかと願ったり。
どれもこれもかなわないと知っているから、また辛くなる。
「あ! 信号変わった!」
なぎの声を合図に、みんなで信号を渡り始めた、その時。
ふと頬を撫でた風が、マフラーを揺らす。
そして
いつかの、花のかおりがした。