幕末の恋と花のかおり【完】
「みんな! ちょっと待ってて!」
それからはもう、その香りの方へ夢中になって走っていった。
最期の夜の匂い袋の香り。
たくさんの思い出が込み上げてくる、あの香り。
一緒に戦った日々も、笑いあった日々も、なにもかも……。
鮮やかに思い浮かべられる。
待ち焦がれた風花が飛んでいってしまう、その前に。
ありったけの思いをのせてこの手を伸ばしたい。
悲しい思い出にしたくないからーーーーーー。
「あの!」
橋の上で、彼に追いついた。
彼は振り返った。
その瞬間、
目と目があって、
まるで、あの日のように
胸の奥で何かが弾けた。
「山崎さん!」
カバンの中から、鴇色の玉かんざしを取り出した。
しかし、彼は何も話さない。
私のこと、忘れてしまったの……?