幕末の恋と花のかおり【完】
嗚呼、この肩を鉄の玉がくり貫いた瞬間を思い出す。
「大丈夫か!?」
竹やぶの中に倒れた少年がいた。
駆け寄り、手首を持ち上げ、脈を測る。
いま覚えば、この少年は罠だった。
すごい音がなって、振り向いたときには銃弾は目と鼻の先にきていた。
「……っ!」
肩から紅い花びらが落ちてゆく。
うずくまっているわけにはいかない。
すぐそこの草の裏に隠れている男に向かって、短刀を投げようとしたとき、花織の顔が浮かんだ。
「いま、ここで逃げたらなんて言わはるやろか」
なんて呑気な、と自分でも思う。
「無事なら良かったって言うやろな」
君がいる時代に、俺達が確かに生きていたということを、残したい。
決心がつき、利き手ではない腕で力のかぎり短刀を投げた。
そのとき、目の前の景色が白に染まる。
ここで倒れたら殺されるかもしれない。
それでも不思議なくらい体は言う事を聞いてくれなかった。
自然と意識が遠のいて、気がついた頃には船の上にいた。