幕末の恋と花のかおり【完】
倒れた俺を運んでくれたのは、松田花織の部下、蟻通勘吾だったそう。
いまも彼は、看病をしてくれている。
今までは自分が人を手当する側だったのに、自分の視界にはいるのは薬を用意する後ろ姿。
不思議な感じがする。
蟻通の背中が霞んで見えたと思うと、
今までの日常が、走馬灯のように鮮やかにめぐり巡った。
大坂から京の町へ来て、新選組に入隊し、いろんな人と出会って、笑い、君と恋に落ちた。
思い出の登場人物で、いまも変わらずここに存在している人は数え切れるほどしかいないけれど、怪我をするまで当たり前だった毎日が、妙に切なくなってくる。
しかし、それと同時に期待をしている自分もいるのだ。
もしも生まれ変われたのなら、あなたに逢えるかもしれない、と。