幕末の恋と花のかおり【完】
副長室に入ると、いつものように十番隊組長の原田と監察頭の山崎の間に座った。
「これから会議を始める。」
土方さんの引き締まった声を合図に会議が始まる。
「古高が吐いた。」
土方がそう言うと、部屋がざわついた。
古高とは、古高俊太郎のことである。この攘夷派の志士は、枡屋という古道具屋を継ぎ、枡屋喜右衛門と名乗って、長州の間者として情報収集や武器調達にあたっていた。
その武器が見つかり、古高は捕縛された。
しかし、なかなか真実を話そうとはしなかったのだが、ついに今日、吐いた。
五寸釘を指して無理矢理話をさせたという話があるが、それについての真偽は古高と、拷問にあたっていた土方しかしらない。
「土方さん、内容は?」
そう聞いたのは平助だ。
「『祇園祭の前の風の強い日に、御所に火を放ち、その混乱に乗じて中川宮朝彦親王を幽閉し、一橋慶喜・松平容保らを暗殺し、孝明天皇を長州へ動座させる』とのことだ。」
真っ先に反応したのは原田だった。
「それじゃあ、天子様を危険に晒すことになるじゃねえか!」
この熱い男は身を乗り出している。
「そうだ。だからなんとしてでもくいとめなければならない。」
近藤はそういった。そこで、山崎が静かに告げた。
「近々会合を開くようです。場所は四国屋か池田屋。」
ーーーー池田屋事件
その言葉が花織の脳裏によぎった。